今回は甲状腺機能低下症です。

甲状腺機能低下症は、甲状腺の働きの低下によって発症する疾患で、日本では慢性甲状腺炎(橋本病)が代表的です。

慢性甲状腺炎は、女性に高頻度に見られる自己免疫疾患です。甲状腺は喉仏の下にあり、全身の細胞の働きを活発にするホルモンを分泌していますが、慢性甲状腺炎では免疫機能が自分の甲状腺を敵と見なして破壊します。甲状腺を攻撃する自己抗体は、成人女性では30人に1人の割で見つかりますが、多くの場合は、甲状腺の機能は正常で、自覚症状もなく治療の必要がありません。

しかし自己抗体を持つ人の内の約1割には、甲状腺機能の低下が見られます。甲状腺機能が低下すると 全身倦怠感・脱力感、記憶力・集中力の低下、無気力、耐寒性の低下、食欲不振、便秘、体重増加、コレステロール値の上昇、顔や体のむくみ、頭髪の硬化・脱毛、皮膚の乾燥、声のかすれ、月経過多、甲状腺の腫れや縮小など、老化や更年期障害、鬱病と誤診されやすい症状が出ます。放置すると意識障害、低体温、呼吸抑制、心不全を起こす場合もあります。

甲状腺機能低下症は血液検査で判別できますが、通常の健康診断や血液検査の項目には含まれません。上記のような症状がある場合は、内分泌代謝内科の検査が必要です。検査の結果、甲状腺に関係するホルモンの値が基準値を外れている場合は、甲状腺ホルモンを内服薬で補います。薬の服用は止められませんが、定期検査と薬の調整で通常の生活を送ることが可能になります。

自己抗体を持つ人の中には、昆布・昆布だし、ヒジキ、ワカメ、ノリなどヨードを含む食品を摂取する事で、甲状腺機能低下症状が現れる場合があります。この場合は、ヨードの摂取を控えるだけで正常に戻ります
。具体的には、昆布、昆布だしの摂取の中止のみで改善されます。ヒジキ、ワカメ、ノリ、寒天などは、ヨード含有量が少ないので毎日摂取しなければ問題ありません。

健康食品にもヨードを含む食品がありますが、海に囲まれた日本の食生活でヨード不足になることは稀です。健康のためにヨードを過剰に摂取するのは注意が必要です。また昔から海草を摂ると髪が健康になると言われますが、慢性甲状腺炎の場合は逆に悪化しますので、くれぐれも気をつけてください。

尚、男性の甲状腺機能低下症の発症率は、女性の10分の1程度です。


米田内科 院長  米田 正弘
2011年6月16日